第5章 愛の月読【うちはイタチ中編】
あの後母は、これが写輪眼だと私に手鏡を持たせた。鏡に映るのは、暗闇の中で禍々しく光る、二つの紅の瞳。
勾玉のようなものが一つ。
…確か三つ揃って写輪眼の本来の力が発揮されると聞いたことがある。強さを得るには、これ以上の悲しみを背負わないといけないのかと思うと、うちはであることを初めて恨んだ。
「父さんからの合格祝いだったのかもね」そう言って母は悲しげに笑った。…最悪の合格祝いだ。
家でじっとしていると余計なことを考えてしまいそうなので、家を出て、夜の集落を歩く。
すると、遠くに見慣れた背中を見つけた。
…イタチ。
声をかけようか一瞬迷う。私の父はフガクさんの元で働いていたから、きっとイタチも知っているはずだ。気を使わせたくないし、やっぱり家戻ろうかな。
背を向けようとしたそのときだった。
「ナナミ?」
名前を呼ばれて、しまったと眉を顰める。イタチは早足で私の方まで駆けてくる。
イタチからは心配の二文字が滲み出ていた。普段は表情になんて出さないくせに。
「…トウリさんのことだけど」
イタチの口から出た父の名に、やっぱりもう知ってるよね、と笑ってみせると、イタチは眉をひそめた。
「私は大丈夫だよ。父は忍だったんだから、死と隣り合わせなのはしょうがないことなの。父さんのおかげで仲間は誰一人死なずに済んだみたい。だから立派に思ってるの。…大切な人を守れるように、私ももっと、もっと強くならないとね」
ちょっと強がり過ぎたかな、なんて思った次の瞬間、イタチは私の目元にそっと触れた。まるで涙痕を優しくなぞるように。驚いてイタチに目をやる。
「俺がナナミを守るから」
強がらなくても良い世界を、泣くことがみっともないと言われない世界を、俺が実現させてみせるから。
私よりも少し大きなイタチの手が、私の手を包み込む。
「…イタチ」
…もしそんな夢のような世界が実現できたら、私はイタチと共に生きていきたい。
そんな臭い台詞、恥ずかしくて言葉には出来なかったが、代わりにぎゅっとイタチの手を握った。
「…好きだよイタチ、誰よりも平和を望んでる、強くて優しいイタチが本当に大好きなの。イタチの信じる未来のためなら、私、なんでも受け止めるよ」