第5章 愛の月読【うちはイタチ中編】
あの出来事をきっかけに、私はイタチと話す機会が増えた。集落内でお互いを見かけたら声をかけるほどになった。
仲良くなればなるほど、イタチへの新しい発見が増えていく。甘いものが好きな所とか、口を開けば弟くんの名前ばかりが出るところとか。こんなにも彼の心は温かいのだと知れた。
気づけば、私はイタチのことを、もっと大好きになっていた。
思った通り、イタチは誰よりも早くアカデミーを卒業し、先輩たちと混じって任務に出るようになった。やっぱりすごいな、と感心すると同時に、置いていかれる自分に対して焦りを感じ始める。
同じうちはとして負けていられない。後を追うように、私も他の人より早くアカデミーを卒業した。そんな私に、母はすごく喜んでくれた。「父さんが任務から帰ってきたら合格祝いをしましょうね」そう言って母は流石うちはだと言った。
イタチにも、無事下忍になれたと報告すれば、頑張ったなと珍しく褒めてくれたから、もっと頑張ろうと、さらに修行へと熱を注ぐようになった。
それからすぐの事だ。父が殉職したと言う報告が入った。あの攻撃の中で遺体が残っただけマシだ、なんて言葉が耳に入った。戻ってきたのは、片腕だけだった。
私の父は、あのフガクさんと並ぶほどの強さを持つ忍だった。娘として本当に誇らしかった。そんな父が、私の知らないところで死んでしまったのだ。
部屋で枯れるほど泣いた。もう二度と聞くことのできない父の声、そして大好きだったあの背中は、もう二度と見ることができないのだ。
”死”というのはそういうことなのだ。
世界が終わってしまうのではないかと思うほど、悲しみに暮れているというのに、木の葉の里は何一つ変わらず、一日を迎えている。その事実が、悲しかった。
争いは何も生まないと言ったのは自分のはずなのに、目の前に父の仇がいたら、私は殺意を抑えられるだろうか。憎しみに勝てるのだろうか。
自分を見失いそうになった。そして、忍の世界がどれほど過酷なのかを思い知らされた。
強くならないと誰一人守れないのだ。強くならないと、心も、身体も。もう二度と自分の知らないところで死んでほしくない。強くなりたい…ッ。
ドクンっ
「…っ!!」
目の奥に鈍痛が走る。力の波が眼球の後ろの方で波打つのを感じた。
そして、視界が、紅に染まった。