第9章 大人の事情
「えええっ! 本当ですか!?」
「おう。前あれボロボロやったけえ板を貼り直してな」
撫子は次に奥の方にある物置小屋を指さす。
「あの納屋は一から作ったんじゃ。勿論手伝ってはもろたけどな、ほぼわしが作ったんやぞ」
「へえ……! 凄いですねえ……!」
撫子は肩を揺らして笑い、窓の遠くを見つめた。
「……大工さんになりたかったけの、わし」
「そうなんですね。納得です」
「まあ貧乏じゃったけ、なられんかったけどな。親にここに売り飛ばされたんじゃ……陰間茶屋はガキを高く買うけの。男も女も一緒じゃ、春を鬻ぐ仕事は金が稼げるけぇ……」
黙り込む瑞に対し、撫子は笑って首を振った。
「も〜それが嫌での! 陰間ちゅうんは女の格好して化粧して、そんなんわしゃ真っ平御免じゃち思うとったんじゃ」
撫子が瑞の方を見、
「やけえこれじゃ」
塞がった左目の上ですっと指先を動かした。
「顔に傷あったら、陰間として売り物ならんと思って。親からオッサンに手渡される時に、隠しちょった小刀取り出して自分の目ぇ突いたんじゃ」
瑞は生唾を飲んだ。
撫子は笑い半分に言う。
「そしたらここのオッサンにめちゃくちゃ怒られての! なんで傷付けたかーっち言いながら杖でボコボコに殴ってくるけえ、更に傷が増えたわ」
窓枠に腕を凭れた。