第37章 天上天下唯我独尊
睡蓮は縁側に座り、竹とんぼを飛ばす菊を眺める。
菊は変わらず顔にお面を張り付け、楽しそうに遊んでいる。
「なあ菊。僕は前々から疑問だったんだが、そのお面について質問がある」
菊は舞い降りてきた竹とんぼを両手で捕まえ、こてんと首を傾げた。
「ン? 菊の顔のこ……」
「それはちゃんと見えているのか?」
「ト?」
「どう考えても視界が狭くなっているだろう? 他にも色々気になるところはあるが、目下の疑問はそれだな」
菊は真面目な顔で言う睡蓮を見つめ、隣に腰を下ろした。
「顔に何か着けてる者同士、何となく感じてヨ」
睡蓮は自分の眼鏡に手をやり、眉を顰める。
「同士じゃない! 僕の眼鏡は視界を広げる物だが、菊のお面は視界を狭める物だ」
菊はクフフと笑いを零す。
意味ありげに呟いた。
「一見見えていなさそうに見えても、見えてるんだヨ。皆同じサ」
「む?」
「だって、竜胆さんも紫陽花さんも目を閉じてるのに見えてるヨ」
「ああ……」
睡蓮は二人の顔を思い返す。
ちょうど目の前の菊が身に付けている狐面のような竜胆の細目。
いつもニコニコと微笑んでいる紫陽花の目も、一本切れ込みを入れたようだった。
確かに開いているのか閉じているのかよく分からない、と思い当たったところで、
「ってそれは違うだろう。怒られるぞ」
「あいタ」
菊の頭をコツンと叩いた。