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影の花

第33章 闇鍋


「……ああああああっ! 紫陽花さんッ、す、すみません、せっかく作ったのに……!」

「い、いやらしすぎる……流石にこれは……」

菖蒲は完全に理性が飛んだ状態でブツブツと零す。

「菖蒲さん……?」

それに気がついた瑞が菖蒲を見ると、

「瑞……! お願いだから、そのぬるぬるの足で……」

フンフンと鼻息荒く迫る。

瑞は半泣きになる。

「まままま待って……待ってください……」

「おれのを踏んでくださいッ!」

菖蒲は綺麗に土下座し、床に頭を擦り付ける。

「菖蒲さんっ、顔を上げてください!」

「踏んでくれるなら……」

「ええッ!?」

紫陽花は空になった大鍋を持ち、そっと風呂場を後にした。

濡れた身体を拭き、服を着替え、台所に戻る。

ふのりを水に浸し、再びいちぶのりを作り始めた。

そこに梅が顔を覗かせ、遠慮気味に声を掛ける。

「あ、紫陽花さん、新しいいちぶのりはありますか……? 今日作られていませんでしたか?」

「……い、今作ってるよ〜。もうすこーしだけ待っててねえ〜」

「そうですか、ありがとうございます。また少なくなってきているので、本当に助かります……次はわたしが作りますね」

梅は柔らかくはにかみ、純粋な笑みを浮かべる。

「ううん! いいの別に〜、次もぼくが作るよお! ぼくに任せてくれたら……うん」

きょとんとする梅と、ばつが悪そうな顔の紫陽花。

風呂場から小さな嬌声が聞こえた。

「何の声でしょう……?」

「さっ、さあ〜! それより梅ちゃん〜、やっぱり作るの手伝って貰ってもいーいっ!?」
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