第27章 変化
「……ボク、怖いんだよね」
桜が萩に向かって小さな声で言った。
自分の白魚のような手を見下ろせば、華やかな振袖が目に飛び込んでくる。
それに合わせた帯も、可愛らしい草履も、何もかも、繊細で小さな作りをしていた。
「怖いって、何がだ?」
萩が訊ねると、桜は伏し目がちに答えた。
「大人になること」
昔の自分と重なるような桜の言葉に、萩は口を結ぶ。
桜は淡々と言葉を紡いだ。
「ボクの口の産毛が髭に変わって、喉仏が出て、声が低くなって、もっと背が伸びて、手足が大きくなって……」
幾つもの不安を零し、自嘲気味に笑った。
「お化粧しても、誰からも女の子に間違われなくなった時……どうなってるんだろうって」
桜の表情と声色からは、少年性と美貌が尊重される陰間の世界で首位として活躍する気負いと恐怖の相反する感情がありありと感じられた。
萩は少し考え込む様子を見せ、呟いた。
「……そうなるのも、あまり悪くないかもしれないぞ」
「え?」
「あ、いや。なんだ、その時その時の桜を受け入れてくれる相手がいれば、変わるのも怖くないんじゃないか」
萩の言葉に桜はきょとんとし、ふふっと笑いを零した。
「な、なんだ笑ったりして」
「なんだか瑞みたいだから。いつもの萩さんなら、鼻を高くするために板で挟んで寝るとか、朝に伸びをしないとか、出来るだけ大人にならない為の方法を言うじゃない? だから、びっくりしちゃった! でも嬉しいよ、ボク、大人になってもきっと素敵だね」
「……そう、か」
明るく笑う桜に、萩も微笑んで頷いた。
「蘭さんなら大人になっても魅力的に見せる方法を伝授してくれるかな? 牡丹さんなら困った顔するだろうなあ……」
「撫子なら、なんでそれが悲しいんじゃ? って言うだろうな」
「あー、言いそー!」
「薊ならなんだろうな……」
「多分、そんなの自分を好きな物好きを見つけりゃ万事解決だろうがって……」
二人はいつまでも楽しそうに話し続けていた。