第21章 魔が差す
「瑞、入ってもいーい?」
「は、はい! 少しお待ちください!」
瑞の慌てた声がし、程なくして障子が開く。
現れた瑞の顔はほんのりと火照り、目は泳いでいる。
「あの……椿さん、どうかしましたか……? 何の用事でしょうか」
帯も急いで締めたのか結び目は崩れ、緩んだ襟元から汗ばんだ鎖骨が覗く。
瑞の初めて見る表情に、椿は思わず喉を鳴らした。
しおらしい顔を作り、上目遣いに見上げた。
「ううん、ただ瑞とお話がしたくなったの……ダメ?」
「い……いえ、大丈夫ですよ。どうぞ、散らかっていますが」
瑞は椿を部屋に上げ、落ち着かない様子で話を切り出した。
「椿さん……これからどこかに行かれるのではないですか? その、とても綺麗な格好をされていますが」
目の前の椿は艶やかな出で立ちで、普段からは想像のつかない色気と気品に溢れている。
細い手首、滑らかな首筋。
着物からは甘い香りがし、どうしようもなく唆られるものだった。
ぱっちりとした黄緑色の瞳が瑞を見つめる。