第1章 贈り物は拾い物
時は江戸。
夕方に差し掛かる頃、とある料理屋の二階にて。
奥座敷に敷かれた布団の上で、中年の男が半裸で満足気に横たわっている。
男の視線の先には、屏風越しに脱ぎ捨てた服を着替える影があった。
程なくして、屏風から真っ赤な振袖を纏った美しい姿が現れる。
乱れた髪も綺麗に整えられ、先程まで行われた情事を一つも思い起こさせない凛とした佇まい。
「桜、今日も良かったよ」
男は体を起こすのも億劫そうに、うっとりと呟いた。
桜はにこりと微笑む。
優美な振る舞いと落ち着いた表情は相当な手練。
しかし、見た目は初々しさを感じる程歳若かった。
小柄でほっそりとした背中まで伸びた金色の髪。
長髪は毛先まで艶々して、行灯の明かりに照らされきらきらと輝いている。
白粉の下の肌は瑞々しく、透き通るような白さ。
名前の通り頬は桜色。
小ぶりでふっくらとした唇、つんとした小さな鼻先、大きな赤い瞳を縁取る長い睫毛。
桜の前髪はパッツンと眉下の所で切り揃えられ、横の髪は顎辺りで真っ直ぐに切った鬢削ぎの形。
頭には鼈甲の櫛を二枚、脇には金色の華やかなびらびら簪を左右に三本ずつ。
桜の出で立ちはまるで、御伽噺に出てくるお姫様のようだった。
ゆっくりと男ににじり寄り、細い指先を男の脂ぎった頬に添えると、軽く口付けをした。
「またお呼びくださいね。わたくし、今日のことは忘れられそうにありません」
そして鈴の鳴るような美しい声で、男にまた抱いてくれと誘いかけた。
桜の言葉に気を良くした男はでれっと顔を緩める。
男は必ず極上の今夜を思い出し、また高い金を出して桜を買うだろう。