第5章 卒業まで
けれど、雪は俯き小さく頷いた。
「欲しいです」
そしてふいっと横を向く。
「…予約がなければ」
狗巻先輩はそんな雪にふわりと笑い掛ける。
ズボンのポケットに手を入れて、小さなそれを握り締めて取り出した。
「ツナマヨ!」
拳になった掌を雪の前でぱっと手を開くと、そこには折り畳まれた小さな紙切れが一枚。
「…………?」
戸惑う雪の腕をぎゅっと引っ張って、ひと回り小さな雪の掌に紙を乗せた。
「…お手紙ですか?今?」
訝しむ雪に、笑う狗巻先輩はこくりと頷いた。
雪はそれを素直に受け取り、折り畳まれた紙を開いていく。雑貨屋さんに売っている小さなメモ用紙のような便箋だった。
“ 1年待ってる ”
“ 雪が卒業したら
一緒に住まない? ”
チャリ、と鳴る音と共に雪の持った紙の上に鍵が乗せられた。おにぎりのキーホルダーが付いている。
「高菜」
それからもうひとつ、紙の上に同じ形の鍵を置くようにして雪の視界に入るように見せた。揺れたおにぎりのキーホルダーがふたつ並ぶ。
「これ…」
ーー鍵だ。
たぶん、狗巻先輩の家の鍵。