第5章 卒業まで
雪は顔を上げる。
「狗巻先ぱーー、
言葉にするよりも先に目に飛び込んだのは、思いがけずすぐ側にあった紫の瞳。
もう見慣れたはずの顔だった。雪は大きく目を見開く。
「ツナマヨ」
“ボタンより良いもの”
「高菜」
“あげる”
言った狗巻先輩の声が近い。
雪は声もなく頷いた。
黒のマスク紐がいつの間にか片耳だけになり、柔らかな唇に口元を塞がれる感覚。
ちゅ、と軽いリップ音が耳に響けば、何があったのかがすぐに理解出来た。
離れて行った狗巻先輩の顔が悪戯に笑って雪を見れば、頬が一気に熱くなる。
「狗巻、先輩…?」
「おかか」
先輩の人差し指が、雪の唇に触れる。
ほんの少しカサついた指先。
「おかか。高菜、ツナマヨ」
“ もう明日から先輩じゃないけどね ”