第4章 オモチャの指輪
「梅干し!」
雪が声を上げる。
また、狗巻先輩の語彙にない1/5の確率だった。
「…おかかー!!」
ムッとして機械を見る狗巻先輩。梅干しのカプセルを閉じて無意識に雪に渡す。
それから間髪入れずにショルダーバッグに手を掛けた。
「先輩?!否っ、もう大丈夫です!!2回もやってもらったしっ」
今度は慌てて雪がその手を止めた。
「ツナマヨ?!」
声を上げる狗巻先輩。
「ツナマヨ、は…欲しかったけど、もう充分です。梅干しがふたつもあるので」
言って渡されたおにぎり形カプセルを見せる。
そもそも冷静になって考えてみれば、ツナマヨが出なくてもお互いが同意すればクレープは行ける。
「梅干しって…。狗巻先輩は言わないけど、可愛いからこれでいいです」
ーー狗巻先輩がくれたものだから。
それだけで充分だった。
と、言い終えてふと自分の失言に気付く。
顔が急に熱くなった。
「ツナ」
ほんの僅か、目を見開いて表情を変えた狗巻先輩。
でもすぐに、雪の言葉にクスクスと笑い出す。
雪の頬がまた一気に熱くなった。
「そんなに笑わないで下さい…」
むくれて目を逸らす雪。
肩を揺らす狗巻先輩は、そんな雪に腕を伸ばした。ぽんぽん、と小さな子どもをあやすように頭を軽く叩いて撫でていく。