第4章 オモチャの指輪
「いくら」
ごめんね、と笑う狗巻先輩。謝る気はなさそうだけど。
「ツナ」
ぱかっと、おにぎりカプセルの開く音が聞こえて、雪は顔を上げる。
狗巻先輩はおにぎりから梅干しの指輪を取り出して、箱をポケットにしまった。
もう一度片膝を付いて、雪を見る。
雪の左手をそっと持ち上げた。
「ツナマヨ」
薬指に、ゆっくりと指輪をはめた。
目を閉じて俯く狗巻先輩。
長い睫毛がとても綺麗で。色素の薄い髪が揺れた。
マスク越しに、その唇が雪の薬指の指輪に触れる。
「………っ」
音もなく落とされた狗巻先輩の唇。
静かに紫の瞳を開いて、雪を見上げた。
どくどくと煩く脈打つ唯の心臓。
狗巻先輩は、雪の持っていたもうひとつのおにぎり形カプセルを奪うように持って行った。
もうひとつのおにぎり形カプセルから梅干しの指輪を取り出すと、自分の左手薬指にはめて見せた。
「明太子」
“ お揃いだね ”
赤くなる雪の頬を撫でて笑い掛ける。