第4章 オモチャの指輪
「高菜?」
欲しいの?と、尋ねる柔らかな声。
嘘を吐いても仕方がない現実に、雪はしぶしぶ頷いた。
「どうしても欲しい訳でもないんですけど。このラインナップならツナマヨがいいかなって」
言いながら雪は立ち上がる。
「まぁ、小銭がなくなっちゃったので今日は諦めます」
ーーけれど。
狗巻先輩の手が立ち上がる雪の腕をぎゅっと掴んだ。軽く腕を引っ張られる。
座ったままの狗巻先輩は、雪を見上げた。
片手でポケットからスマホを取り出すと、画面に視線を移して指を滑らせていく。
それから然程の間を置かずに、画面を雪に向けて見せた。
[ ツナマヨをプレゼントしたら
この後デートしてくれる? ]
画面に書かれた文字の衝撃に大きく目を見開く雪。小首を傾げた狗巻先輩の顔が、向けられたスマホ画面の横から驚く雪の顔を楽しそうに覗いていた。
ツナ、とスマホの画面をもう一度触って、再び雪に向けた。
今度はメモではなくて、見覚えのある可愛いロゴが目に入る。
「あ!これ、駅前のクレープですか?」
最寄りの駅にあるクレープ屋さんのクーポン券だ。
「しゃけ!」
ぐっと親指を立てる狗巻先輩。
「行きたいです!」
狗巻先輩とデート出来るなんて願ってもないチャンスだ。わくわくした気持ちで雪は答える。