第4章 オモチャの指輪
邪魔にならないように立ちあがろとしたが、それより先にその人は距離を詰めて雪の隣りに座り込んだ。
「明太子」
言ってお互いの肩が触れた。
「………?!」
聞き慣れた語彙に顔を上げれば、マッシュルームカットの亜麻色に黒のマスク。
緑のベストにワンショルダーのバックを背に、雪の目線に合わせて膝を折っている意中のその人。
見慣れない私服に一瞬雪の反応が遅れた。
「狗巻先輩…っ!!?」
カプセルトイを見て思いを爆ぜていたその人がーー、いきなり目の前に現れて、雪は言葉を失う。
考えてみれば、高専からあまり距離のない雑貨屋だ。話をしていても時折話題になるくらいには生徒の馴染みの店だった。
どくどくと煩くなっていく心音とともに、冷や汗がどっと出るような感覚。
頭の中が真っ白になる。
「ツナ」
挨拶なのか、真横にいる狗巻先輩はぱたぱたと雪に手を振って見せた。
吊り目がちで涼しげな目元が、それだけでも彼の綺麗な顔を物語っている。ついでに私服もオシャレだ。