第1章 いちごたると
五条先生を見送り、扉が閉まれば。
「どうする?」
声を掛けたのは真希さんだった。変わらず最前列の1年女子ふたりを見た。
「雪と野薔薇、先に選ぶか?」
そう聞かれて、野薔薇ちゃんと顔を見合わせる。思わず笑顔が溢れた。
「「いいんですか?!」」
顔を上げるふたりに「先に好きなの取ってけ」と笑うパンダ先輩。
「んじゃ、俺たち皿持ってくる」と、虎杖くんと伏黒くんは隣の食堂へと向かうようだった。
みんなの優しい同意を経て、目をキラキラと輝かせて箱を見るふたり。
しばらく眺めると、
「じゃあ、私ガトーショコラにするわ!」
虎杖くんから皿を手渡され、野薔薇ちゃんは四角のガトーショコラを選んで取り出した。
それもこれも全部が美味しそうで、雪は目移りするばかりだったが…。
「ツナツナ?」
隣から声を掛けられて顔を上げた。
黒のマスクに緩やかなスウェット。部屋着だろうか。それでも何だかオシャレに見える。
ちょっとだけいつもと違う雰囲気の狗巻先輩が雪の顔を覗き込む。
「ツナマヨ?」
口元はマスクで隠れているが、紫の瞳が小さく笑っていた。
不意に話かけられた語彙の少ないおにぎりの具に、雪は僅かに頬を染める。ケーキを見るフリをして、赤く染まった頬を隠して目を逸らした。
「全部美味しそうで、選べないですね」
うぅーん、なんて唸りながら、雪は平静を装いとりあえずケーキを眺める。
そんな雪に、狗巻先輩は箱を覗いて一歩近付く。ふわ、と香るのは先輩の匂い。腕が少しだけ触れて、温かな体温が伝わるその距離に、心臓がひとつ大きく鳴った。
語彙が少ないからなのか。普段から体術や組手の相手をしているからなのか。
狗巻先輩の人に対する距離感は割と近い。
…ように感じる。