第1章 いちごたると
「美味しそうだね、野薔薇ちゃん」
隣の同級生をわくわくして見れば、野薔薇ちゃんはやや難しそうな顔でケーキを眺めていた。
「この店…!」
「知ってるお店?」
左から右へと視線を巡らせる野薔薇ちゃん。雪もその視線を追った。
箱に何やらオシャレなロゴが印字されている。
「ザギンとかに店がある超有名なパティシエが、地方に出した今人気のお店よ」
テレビで見た、と言って私に目配せする。野薔薇ちゃんはほんの少し声のボリュームを絞った。
「このケーキひとつ、1000円はくだらないわ…」
「………?………??………??!
1000円?!この小さなケーキが…?!」
10個程入ったケーキの箱をまじまじと眺める。気のせいか、一般人の雪には非常に上品な見た目に見えてくるから不思議だった。
ゴールドを通り越してブラックなカードで支払うのだろうか…。さすが御三家。
恐々と雪が顔を上げると、五条先生の手元には似たような大きさの箱がもう一箱あった。
雪の視線に気付き、五条先生はその一箱を持ち上げて元々入っていた袋に片付ける。
「コレは僕の分。その箱はみんなで適当に分けて食べてね」
言って五条先生は袋を手に、反対の手をひらひらと私たちに振った。
「さてと。じゃあ、僕は行くね。みんな、あんまり夜更かししちゃダメだよ。おやすみー」
軽口を叩きながら、談話室の扉から出て行った。
「ありがとうございます」
雪はその背中に再び礼を言う。
同時に後ろから「五条先生ありがとー」と元気に言ったのは多分虎杖くん。口々に「おやすみー」などと声を掛けている。