第3章 Valentineday♡
狗巻先輩も、それに言葉はなく雪の視線を追う。
白く長い指先が、紫のリボンに掛かった。
するりとリボンを外して、白い箱の蓋を開ける。小さな箱の中には、宝石のような綺麗なチョコレートが6つ並んでいた。
雪の、本命のチョコレート。
狗巻先輩は雪の背中に触れたまま、一番端のチョコをひとつ摘んだ。ほんの少し動く度に、狗巻先輩の匂いがふわりと香る。その小さな息遣いが感じられるくらいの距離。
ドキドキと煩い雪の心音が、聞こえてしまうんではないかと不安になる。
ネックウォーマーをズラして、顕になった口元には、蛇目の呪印。開いた舌先には、牙の印が目に入った。
頭がうまく回らない。
ぼんやりとそれを眺めていれば、不意に狗巻先輩の唇が静かに閉じた。
チョコレートを持つ狗巻先輩の手が止まる。
“ 見 す ぎ ”
口の端が持ち上がり、意地悪な笑顔が見えた。
「おかか」
また一瞬にして真っ赤になる雪。顔から火が出そうだとはこの事だ。