第3章 Valentineday♡
ーーコンコン、と。
開いたままの扉をわざわざノックする音が聞こえた。
「ツナマヨー?」
振り向くよりも先に、聞き慣れた語彙が雪の耳に届く。
「…………っ?!」
心臓がひとつ大きく跳ね上がった。
「…い、い…ぃぃい狗巻先輩?!」
「しゃけ〜」
慌ててそちらを見れば、さっき見掛けた時と変わらない制服のままの狗巻先輩。
挙動不審な雪にもいつもと変わらない笑顔で手を振っていた。
「明太子?」
入っていいかと尋ねるように声を掛けるが、その癖雪の返事を待つ気はないらしく、狗巻先輩は無遠慮に後輩の教室に足を踏み入れた。
雪は白の箱を隠すように机の前に立って、身体ごと狗巻先輩を振り返る。
「どうしたんですか?」
近付く狗巻先輩に目を向ける。
色素の薄い亜麻色のマッシュルームヘアに、吊り目がちな紫の瞳。夕陽がそのシルエットを照らしていた。
「あ。虎杖くんたちは夕練がないから武道場に行くって話してましたよ?野薔薇ちゃんは…お買い物に行くって走って行ったかな」
教室にはもう雪の鞄しか残っていない。
「おかか」
目の前に立ち止まった狗巻先輩は、雪の言葉を否定する。人差し指で雪を指差した。