第3章 Valentineday♡
はぁ、とため息をひとつ吐いて、鞄の中にある小さな箱を取り出す。
今日は雪も狗巻先輩もお互い任務はなくて。
掌に包み込まれたその小さなプレゼントを、渡す機会はいくらかあったはずなのに。
黄みがかったクリーム色に近い白の箱に、店名がオシャレに印字された紫のリボン。
それはまだ、雪の手の中にあった。
背伸びをして買った、有名なブランドのチョコレート。
野薔薇ちゃんに背中を押されて買ってみたけれど、本当は渡す勇気もなかった。
ーーただ、ほんの少しだけ。
渡せたらいいな。
…なんて。
憧れで買ってみただけのチョコレートだった。
それは、今日渡す事が出来なければ、何の意味も持たない“ただのチョコレート”。