第1章 いちごたると
「あ、いえ…私は大丈夫ですから、先輩が、」
パタパタと両手を振って断るけれど。
「高菜」
伸びた先輩の指先が、雪の片手にふわりと触れて止める。温かな指先。
フォークを持つ手が雪の口元に伸びて、冷たい果物の感触が唇に触れた。
「………っ?!」
ほんの少し押されて開いた唇に、押し込まれるように苺が入っていく。
甘い、苺の香り。
それは一瞬の出来事で。
深く考える間もなくて。
仕方なくそのまま、受け入れる事しか出来なかった。
甘い苺。奥歯で噛めば、果汁が広がる。雪のタルトよりも少し大きくて、赤くて甘い。
ドキドキと鳴る心臓の音がうるさく響く。
甘い、はずーー…
「ツナマヨ?」
甘い?と、首を傾げて雪を見る狗巻先輩。
優しい顔だった。紫の瞳が少し揺れて。でも、あまり見た事のない笑顔のない顔。
口を動かしながら目を逸らす。
そんな顔でじっと見つめられれば、どうしていいのかわからなくて。