第1章 いちごたると
「ツナツナ」
呼び掛けられて振り向く雪。
狗巻先輩は自分のショートケーキの苺をフォークで刺す。
「明太子」
苺の刺さったフォークを雪に差し出した。
たぶんそれは、本日2回目の“どうぞ”。
「………?」
狗巻先輩の手元にきょとんとする雪。
「…………??」
いちご?
苺は苺タルトを選ん雪の皿の方が明らかにたくさん乗っている。ひとつしかないショートケーキの苺。別に嫌いと言う訳ではないだろう。
ちらと狗巻先輩を見上げると、片手でフォークを差し出して、いつもと変わらない笑顔を雪に向けていた。
目が合えば、狗巻先輩の唇が僅かに開く。
声のないその仕草。慣れたはずの意地悪なやり取りに、また頬が熱くなった。