第1章 いちごたると
「また…揶揄わないでください。2回目は流石に騙されないですよー。もうその手には乗りませんからね!」
辺りを見回して、雪の目に入ったのはショートケーキの乗った先輩の皿だった。
「あ、じゃあお皿に乗せますね」
言ってショートケーキの皿にひと口分のタルトを置いた。自分のケーキ皿からもう少しクリームを付けて渡すと、狗巻先輩はわざとらしくしゅんと萎れてそれを受け取る。
「おかかー」
狗巻先輩は受け取った皿のタルトをフォークで突いた。
「自分で食べてください」
そんな狗巻先輩に、雪も笑いながら自分のタルトに手を付けた。
うん。いつもの狗巻先輩だ。
狗巻先輩は雪の置いたタルトを口に入れた。
小柄で体格はあまり雪と変わらない。それでいてまつ毛も長くて整った綺麗な顔だけど、案外ひと口が大きいのはやっぱり男の人なんだな、と改めてと思う。
大好きな狗巻先輩とふたりきりで、こうして話すのはまだ少し恥ずかしいけれど。
「しゃけ!ツナマヨ!」
嬉しそうに目を輝かせる狗巻先輩。
それを見て、雪も何だか嬉しくなる。
「はい!苺、美味しいですよね!!」
どちらともなく笑い合う。
雪は紅茶をひと口啜って、また苺タルトにフォークを刺した。
恥ずかしいけれど。それだけじゃなくて。
やっぱり嬉しくて、楽しい時間だった。