第1章 いちごたると
はぁ、と息を吐いて、雪は苺にフォークを刺す。カスタードクリームを絡めてクッキー生地も一緒に持ち上げた。
きっと狗巻先輩にとっては、ただの悪戯や悪ノリであって、取るに足らない事なんだろうと思うのだけど。
何とはなしに振り向けば、また狗巻先輩と目が合って。先輩は自分のショートケーキを口にしていた。
……あ。
「あ!五条先生のオススメ。ひと口食べますか?」
ちら、と手元の苺を見た。艶やかな苺にカスタードクリーム。ちょうどクッキー生地も乗っている。
「しゃけ」
雪はその手を差し出して、
……止めた。
差し出してふと気付くが、考えが足りなかった。
………えぇと、どうしよう。
このまま差し出せば間接キスになってしまうが。
狗巻先輩は気にした様子もなく、雪の行動に自然と口を開いた。気にしない人は気にしないのだろう。実際雪も野薔薇ちゃんになら平気で差し出すけれど…。
「……あ、違くて、えぇと…」
何だか雪が寸止めしていじわるしている形になってしまう。
相手は野薔薇ちゃんや真希さんじゃない。
狗巻先輩だ。
罷り間違っても「あーん」なんて出来ない。それこそ心臓が保たない。
フォークが僅かに震える。
そんな雪の反応に、狗巻先輩は悪戯に笑った。指先で閉じた自分の口元を指す。
「高菜ー?」
食べさせてくれないの?と、告げたその顔は、やっぱり意地悪で。どこまでが本気なのかよくわからなかった。
ぎこちない雪に、また悪ふざけをしているのだろうか。
だんだんふたりでいる事にも慣れてきた。揶揄われているんだ、と。