第1章 いちごたると
意識して少しだけ顔を上げ、平常心を取り戻すように皿の上の苺タルトを見る。
フォークに刺したままの艶やかな苺。
美味しい?と、尋ねられたが答えられずにいる“狗巻先輩が選んでくれた苺タルト”。
本人を目の前に、ゆっくりとその苺を口に運ぶ。
否、そもそもこれは、五条先生のオススメ、と先輩が教えてくれただけであって。そんなに気負う事もないのだけれど。
それを教えてくれて。雪に譲ってくれて。
何故か隣にいる。美味しい?って尋ねて。
向かい側じゃなくて、ーー私の隣にいる。
「…………」
状況を整理すると、余計に意味がわからなくなってきて、思考回路がよくわからない方へと回っていく。
ぐるぐる。
ぐるぐると考えながら、雪はフォークに刺さった苺をひと口で口の中に放り込んだ。
「……あ。甘い」
甘い、けど甘過ぎないカスタードクリームに、甘酸っぱい苺の香りが口いっぱいに広がる。
「…美味しい!」
雪は、ぱっと顔を上げた。
“狗巻先輩が選んでくれた苺タルト”はやっぱり間違いなかった。