第1章 いちごたると
「…………?」
フォークに苺を刺して持ち上げる。
雪が顔を上げると、僅かに揺れたマッシュルームヘアのその人がペットボトルを机に置いていた。紫の瞳が私の顔を伺う。
「ツナマヨー?」
お隣宜しいですか。
狗巻先輩はそんなニュアンスで首を傾げながら笑う。
「…………?!」
いつもパンダ先輩や乙骨先輩といる事が多い狗巻先輩。けれど、今目の前には狗巻先輩ひとりしか見当たらなかった。
視線を巡らせてよく見れば、雪の背後、少し離れた位置で宣言通り真希さんと一緒にいる野薔薇ちゃん、…の横にいつの間にかパンダ先輩も合流していた。
頭数は少ないが、任務や鍛錬の時間ならともかく、学年も性別も違う狗巻先輩とふたりきりは、中々の例外かもしれない。
ちなみに、任務の都合上虎杖くんとふたりきり、伏黒くんとふたりきりの教室の空気は慣れている。
思い掛けない相手に目を見開く雪。固まる雪の返事を待つ事はなく、狗巻先輩は勝手に椅子を引きながら隣に座る。
「明太子?」
美味しい?と聞きながらマスクをとってペットボトルの蓋を回す狗巻先輩。一瞬返答に遅れるが、苺をフォークに刺したまま我に帰る。
「あ、えぇと、まだ食べてないです…けど…」
呪印のある口元。
元より整った顔だと思っていたが、その顔を直視する事が出来なくて、頬がまた赤く熱を帯びていく。
「すじこ」
狗巻先輩は同意のように一言だけ呟いて、ペットボトルを口に運んだ。ごくん、と喉を鳴らして動く喉仏につい目がいってしまう。
「…………っ」
何だか急に恥ずかしくなって雪は目を逸らした。心臓が煩くなっていく。
私はそのまま俯いた。
ーーダメだ。
周りにはみんないるのに、何だか急にふたりきりの空間を与えられたみたいで。
落ち着こう、と自分に言い聞かせ、深呼吸をひとつ。
いつまでもそんなに挙動不審ではいられない。