第7章 おまけ
ここは西の海。偉大なる航路の外だ。
「プルプルプル……」
停泊中の軍艦に置かれた電伝虫が鳴いている。一番近くにいたマルーが受話器を取った。
『はい。こちら海軍本部中佐のマルー』
〈丁度良かった、あなた宛てに交換です。ロシナンテ中佐からです〉
『……! どうぞッ』
無意識にトーンの少し上がった声でマルーが答えると、すぐに相手に繋がった。
〈……マルー、おれだ。元気か?〉
『ロシナンテ! もう連絡していいんだな、潜入任務終わったのか?』
スパイだとバレないために連絡を取り合わないようにしていたが、わざわざ掛けてきたということは……とマルーが嬉しそうに聞く。
〈いや、まだだが今ちょっと任務から離れててな…そっちはどうだ?〉
『今は西の海で巡回だ。いい加減本部に帰りたいね』
〈元気そうだな〉
辟易したとばかりに笑うマルーにロシナンテが微笑ましげに言う。しかしどこか疲れているような口調だった。
『そっちは? 元気じゃないのか?』
〈おれは元気だ。ちょっと聞いてほしいんだがマルー……実は今おれ、潜入先にいた子供を1人連れ出してるんだ。そいつが病気でさ、すごくしんどそうで……身体も冷たくて、ずっと震えてる。でもろくに衣食住確保できない状況だ。本当にどうしよう……おれ、こいつに死んでほしくねェんだ。どうすりゃ少しでも良くなるかな……〉
どうやら世間話をするために掛けてきたわけではないらしい。子供の看病のアドバイスを求めるのが本題だったようだ。
『まさか病気で弱ってる子供と野宿してるのか? ……正気か?』
信じられない。マルーはびっくりして自然と呆れた口調になってしまった。
〈ああ、北の海中の病院に突撃してまともに過ごせなくなっちまった。暴れちまったから病院はおろか街にすら歓迎されなくてな〉
溜め息と共に出される供述を聞くととても正義感のある海兵のやることとは思えない。しかしロシナンテも好きでやっているわけではないはずだ。
『自業自得と言いたいところだが……そこまでして連れてる子供を助けたかったんだな。ずいぶん必死だがそんなすぐ死にそうな病状なのか?』
〈治し方がわからねェ病気なんだ。しかも寿命も迫ってる……ようやく治りそうな希望が出てきたのに、目に見えて弱ってんだ。薬もないしロクな毛布も宿も用意してやれねェ……〉