第6章 麦わらとハート
泣きじゃくりながら気が済むまで話し、マルーが落ち着いた頃ようやくTボーンが口を開く。
〈マルー中佐、お前が今までどんな気持ちで過ごしてきたのか痛いくらい分かった。これまで、本当に大変だったな……〉
鼻を啜るマルーを労るような優しく穏やかな声だ。涙と鼻水にまみれたタオルを握り締めながらマルーも頷いた。
〈海軍から離脱して8年という歳月が過ぎたんだ。きっと自分だけ置いていかれたような疎外感をしばらくは感じてしまう筈だ。体制も情勢もすっかり変わってしまった……。辛いことの原因が変わるだけで、これからも大変なのは変わらないだろうが……また私の元で精進してくれると嬉しい。お前は大丈夫だ。少しずつ遅れを取り戻していこう〉
『ぐすッ………へへ、 まだ配属先が変わるかどうかも分かりませんけどね……。でも……引き続きTボーン少将の部下であれたら嬉しいです。その時はよろしくお願いします』
〈ああ。帰還を心より待っているぞ……マルー中佐が無事で、本当によかった〉
慈しむように言われたその言葉が心の底から嬉しくて、マルーはまた泣いてしまった。
電伝虫の通話が終わった後、タオルで顔を拭いながら洗面所まで向かう。
顔面を一頻り水で洗ってから鏡を見ると、真っ赤に泣き腫らした顔が映っていた。
『"スライム"……"モールド"』
いつかのようにアメーバで顔を元に戻す。
『(よし……これでもう大丈夫)』
情けない顔を晒して本部に戻るわけにはいかない。
今度こそ泣き止んだマルーは、もうすっかり湿気ってしまったタバコを大事にポケットの中にしまい込んでから、その場を後にした。
さよなら、My Dear【完】