第12章 私は今だけ『催眠術が効かないタイプ』
「……えっ?」
鳥束くんがいない。部屋から完全に消えている。
私がきょろきょろと部屋を見回していると、
「あれ?ㅤ照橋さんどこ?」
という言葉が耳に飛び込んできた。
霊能力者である鳥束くんは瞬間移動や透明化などの能力を使えないだろうから、これは恐らく斉木くんによるものだろう。
元々催眠も斉木くんがかけたんだし、何か理由があっての事だと思う。
でも、これは……まずい。
鳥束くんがどこかへ移動する事で向こうの問題は解決したとしても、私の方はどうなる。
いきなり人が消えましたなんて、異常以外の何物でもない。
とにかく誤魔化さないと……!
「えっと、照橋さんなら忘れ物を取りに行くって言ってたよ」
「そうなんだ」
幸い鳥束くんが消える瞬間は誰も見ていなかったのか、特に追求される事はなかった。
これは、何とかなったと言ってもいいだろう。
ぱっと思いついた事を言っただけだが、この言い訳ならしばらく戻ってこなくても違和感はないはずだ。
でも、なるべく早く戻ってきてほしい……。
事情を知っている私が何とかするべき。
そんな使命を抱えている私は、本物の照橋さんが帰ってくるまで誤魔化し続けないといけない現実を見て、一人でひっそり頭を抱えるのだった。