第30章 惚気話の実績解除
「名前さ」
お昼休憩、一つの机を分け合って知予とお弁当を食べていると、
「もしかして、恋人できた?」
と聞かれた。
お箸で挟んでいる、今まさに口に入れようとしていた唐揚げを落としそうになる。
「そ、そんな事、ないよ……?」
何とか声を絞り出したが、聞かれた時に肩が跳ねてしまったからか、すっとぼけるのは通用しそうにない。
現に、目の前にいる知予はキラキラと目を輝かせていた。
「やっぱり! ねぇだれだれ!?」
私に恋人がいるていで話が進んでいる。一応『そんな事ない』と否定してみたが、どうやら意味はなかったようだ。
女子は恋バナを好む、みたいな話はどこかで聞いた事があるが、知予はその話にしっかり当てはまっていると思う。
恋バナの出来そうな雰囲気を出してしまった私を見逃しはしないだろう。
「誰にも言わないから!」
恋バナの絡んだ知予のこの言葉は、世界一信用出来ない。
言わないという行動を取り続ける事も出来るが──しかし、私は知っている。
こうなったら、言うまで解放されない事を……!
「巛組じゃないよ。違うクラスの子」
──そこで、取りあえず私は違うクラスである事実だけ告げる事にした。
これで何とか逃げられたり……、
「うん。で、誰!?」
しなかった。
「……+組。+組の鳥束零太だよ」
「鳥束零太!? あの!?」
知予はそこそこ大きな声で、私の出した名前を繰り返した。
クラスメイトの何人かが、何事かと振り返る。
「ちょっと知予、声大きい! 誰にも言わないどころの騒ぎじゃないって!」
そう言う私の声も大きいため、余計に教室内の注目を集めてしまった。
「……何でもないよ?」
私達二人に注がれた視線を外すべく、私は意味があるんだかないんだかよく分からない台詞を吐いた。