第29章 急展開のラブコメディ(当社比)
もう随分と一緒に過ごしてきたにしては、なんと急な恋の芽生えなのか。
……まあ、それも良いかもしれない。
「鳥束」
「っ……はい」
「私、鳥束の事が好きかも」
「はぁ!? ……い、いや、俺も言おうとしてましたけど……!」
真面目な顔をしていた鳥束の表情が崩れる。
それが可愛くて、
「ふふっ」
思わず笑ってしまった。
「ていうか、好き〈かも〉なんですか?」
鳥束は不満そうな顔をする。
「まあねぇ、気づいたのさっきだから」
私がそう言うと、鳥束はガッツポーズをした。
「俺……絶対、アンタを本気で惚れさせてみせますから……!」
「……鳥束って私の事好きだったの?」
「気づいてなかったんスか!?」
「えっ」
「えっ」
一瞬だけ、図書室に静寂が満ちる。
「だっ……こ、この、鈍感……!」
鳥束は頭を抱えてから、机に突っ伏した。
……もしかして、『お互い急に意識し出した』とか『私が一方的に意識し出した』とかではなく、『鳥束が意識していたところ、遅れて私が彼を意識し出した』って事なのか……?
この推理を伝えてみたところ、彼に全力で頷かれてしまった。
鳥束からかしたらアプローチをしていたつもりでも、私には全く効果がなかったようだ。……というよりも、気づいていなかった。
それがまさか、手が触れ合うという出来事で私が意識し出したのだ。きっと、彼はびっくりした事だろう。
「……行きますよ」
鳥束は立ち上がり、手を差し出した。
「そうだね、そろそろお昼休憩終わっちゃうし」
「……なにニヤニヤしてんスか?」
「別にぃ?」
手が触れ合う。恋するきっかけなんて、それで十分だろう。
私は笑みを浮かべて、鳥束の手を取るのだった。