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【斉木楠雄のΨ難】鳥束だけの短編集

第29章 急展開のラブコメディ(当社比)


「……何これ、全然分かんないんだけど」

鳥束に見せられたノートに書き込まれた問題を見て、私は唸った。

「名前さんでも無理かぁ!」

図書室の中に鳥束の大声が響いたが、私達の他に利用者はいないため、誰からも睨まれる事はなかった。

今は昼休み。
五限目の数学で宿題の答え合わせをするらしく、そこで鳥束が当たるらしい。彼曰く、席順で当てられるから、自分が当たる日が何となく分かるのだと。

数学はまあまあ……少なくとも鳥束よりは分かるため、私は彼に頼られていた。結局教えられてないんだけどね。私も分かりません!

……いや、待てよ。

「教科書の例で出されている問題見たら、解き方分かるかも! 教科書見せて教科書!」

私は声を弾ませて、鳥束に教科書を要求した。というよりもう、鳥束が教科書を渡してくれるよりも前に、私は机の上に置かれた彼の教科書を手に取ろうとする。

その時だった。タイミングが被り、鳥束と手が触れ合う。
お互いの手が触れ合った瞬間、私と鳥束は、びくりと身体を跳ねさせてしまった。

微妙な沈黙が流れる。
何か喋らなければと思うのに、喉が震えるだけで声が出なかった。

触れ合ったところが熱い。バクバクと騒がしい鼓動が、私が動揺している事を証明してしまっている。

パッと顔を上げると、鳥束と目が合う。

「名前……さん」

鳥束は、耳まで真っ赤になっていた。か細い声で、私の名前を呼ぶ。

鳥束の顔を見た時、より一層鼓動が跳ね上がり、頬が熱くなる感覚がした。

……いやいや、おかしいって。

──鳥束が、すごく、カッコよく見えるなんて。
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