第27章 混浴は恋人の必須イベント
蝉が鳴き、肌に纏わりつく気温と共に夏を感じる今日この頃。
買ってきた食材を冷蔵庫に入れていると、さっきまでリビングにいた零太くんがやって来て、私の足元で見事な土下座を披露した。
「俺と一緒に風呂入ってください!」
窓が空いていたら近所に声が響いていたんじゃないかと思うくらい大きな声で叫ぶ零太くん。……窓閉めてて良かった。
「なに急に!? と、取りあえず顔上げて!?」
私は牛乳パックを持ちながら、ドラマでしか聞いた事のない台詞を言った。
「俺、恋人と風呂に入るのが夢だったんです! ……だめですか……?」
零太くんは顔を上げて、潤んだ瞳を私に向ける。
所謂上目遣いというやつになっており、そんな彼を直視してしまった私は、
「だめじゃない……」
殆ど無意識のうちに、そう返していた。
……やってしまった。本当に、やってしまった。
出来る事なら数分前、了承する直前に戻りたい。
断るつもりだったのに──上目遣いでお強請りしてくる零太くんが可愛すぎて、つい頷いてしまった。
私は今、脱衣所に立っている。
狭い脱衣所内をうろうろと歩き回る事数分、私はようやく覚悟を決めた。
ゆっくりと服を脱いでいく。汗で濡れた服を洗濯機の中に放り込み、私はバスタオルを身体に巻いた。
お風呂場と脱衣所を隔てる扉をじとりと睨む。
扉に付けられている磨りガラスが、普段は何とも思わないのに、何故か今はいやらしく思えて仕方がない。
零太くんは、私よりも先にお風呂に入っている。……我が家のお風呂に。
磨りガラス越しに彼らしき姿が見えない辺り、恐らく湯船に浸かっているのだろう。
「は、入るよ!」
ありったけの勇気を振り絞って出した声は裏返っており、私が緊張している事を物語っていた。
「はい、どうぞ!」
お風呂場にいるせいで少し籠っている零太くんの声を聞きながら、私は扉を開いた。