第8章 *File.8*
「オレの正体が、アイツらにバレて?」
確かにあの日、雪乃から聞いた。
近い将来に、オレは死ぬんだと。
ゼロからオレ自身が死んだ理由を聞いたのは、何故かその日、オレの身に何も起こらず、死なずにすんだ後。
「ああ。もし雪乃がいなければ、今の時点で生きているのは…」
「ゼロ、お前だけだ」
松田が、真剣な目でゼロを見つめた。
「……」
「だから……」
あの日の雪乃の言葉が、願いが、鮮明に甦る。
それはまるで、昨日のことのようにハッキリと。
そう告げた、あの時の雪乃の表情と共に。
「なんだ?」
あの話を聞いた時は、まさか班長まで死ぬとは考えてもみなかった。
「松田を助けたあの日、オレにこう言ったんだ。『この世界で、ゼロと陣平と班長と長い人生を笑って楽しく生きてっ!それだけがこの世界に来た私の、たった一つの望みなんだからっ!』って」
「「……」」
「雪乃は自分の生命を犠牲にしてでも、助けるつもりだった」
「松田を、景光を、班長を。あの夜に決意した」
あの夜、雪乃がスマホで調べていたのは、杯戸町にあるショッピングモール。
三年前の11月7日のあの日、雪乃から連絡を受けたオレとゼロが米花中央病院に仕掛けられた爆弾を発見し、処理をした。が、爆弾を仕掛けられた観覧車に乗り込んだ松田が、本当は此処で殉職したんだと告げられたのは、松田と共に観覧車に乗り込んだ後、だった!
そう、もし最悪の事態が起きていたら、雪乃は松田と共に…。
あの時は当たり前のように頭の中で処理されていたけど、よく考えれば、一番肝心なことを雪乃から何一つとして知らされてはいなかった。
オレとゼロは…。
雪乃は知っていた、んだから。
松田が乗り込んだ観覧車が、病院にいる大勢の人質を守るために爆破されたことを。
「あの夜の深いため息は…」
「オレ達を助けていいのか、迷っていた。オレに年齢を聞いた、あの日から、ずっと…」
「俺を助けた後、雪乃は自分が知っている物語が、俺達の未来が変わってしまうかもしれないと、懸念してたな」
「でもそれは、俺達だけじゃない。この世界に住む全ての人間に言えることだ」