第15章 *File.15*(R18)
「その時は、必ず降谷さんか松田さんを呼んで下さい」
「これ以上、仕事の邪魔は出来ません」
「彼らはそう望んでいるはずなので、遠慮なく。自分も、と言えないのが、不甲斐ないですが」
「お気持ちだけで、十分です。有難うございます」
何時もは感情の無い涼し気な眼鏡の奥の瞳が、困ったように笑うのを見て、少し気持ちが楽になった。
「悪いな、急に」
「こちらこそ何時も頼ってばかりで、本当にゴメン」
「謝らなくていい。景光にはしばらく向こうに帰るなと言ってある」
「うん」
私が風見さんに連れて来られたのは、ゼロのセーフハウス。
暫くの間、此処が私の住まいになる。
ゼロは頭を軽く振ってから、私の髪をポンと撫でた。
「大体の物は揃ってるから、そんなに不自由はないと思う。此処にある物は遠慮なく、何でも使ってくれて構わないよ」
「有難う」
「明日の朝、迎えに来るよ」
「助かります」
ザッと軽く室内の説明をした後に合鍵を手渡してくれると、ゼロは直ぐに帰って行った。
きっと、気遣ってくれた。
ダラダラと此処に居座るよりは、私は一人になりたいだろうと。
「景光…」
玄関の扉の閉まる音を聞いた途端、身体の力が抜け落ちて、キレイに整理整頓されたダイニングの床にペタリと座り込むと、ただ、涙が溢れた。
『捜査中に撃たれそうになった部下を庇った反動で、壁に激突した。その時に頭を強打して意識を失った。暫くして病院で意識は取り戻したんだが、駆け付けた黒田管理官がどうやら様子がおかしいと検査した結果、雪乃、お前の記憶だけが抜け落ちていることが判明した。景光には簡単にお前との関係は伝えてはおいたが、さすがにこの状況で同居させるわけにはいかないから、景光とは顔を合わせないまま、ウチに来い』
電話越しに聞いた、ゼロの言葉を思い出す。
本来なら三年前に喪っていた、景光の生命。
恐らく異世界から私が来たことによって何事もなく今日まで過ごして来たけれど、もしあの時死なずに生存していたとしても、間違いなく私が変えてしまった、景光の未来。
本来なら喪うはずだった陣平と班長の生命を喪わずにすんだのだから、これぐらいの苦痛は味わいなさい。と言う、神様からの試練、なのか?
それとも出逢った時から景光に甘え切って迷惑ばがりかけている私への罰、なのか?
或いは、両方なのか?
