第13章 *File.13*
「景光っ」
「おはよ」
先に目覚めてはいたけど、名前を呼ばれて目を開けると同時に、隣で眠っていた雪乃がぎゅぅと抱きついて来たから抱き締め返して、あやすようにポンポンと背中を叩く。
此処で眠る時だけは色んな柵を捨てて、ただの男になれる。オレにとって、世界でたった一つだけの安らぎの場所。
「ありがと」
「ああ…」
指輪、か。
「嬉しすぎて泣いちゃう」
「喜んでもらえて、よかった」
「めっちゃ可愛いしっ」
「雪乃が?」
「違う、指輪!」
胸元に埋めていた顔をパッと上げて首を振ると、左手を開く。
「オレにとっては、指輪よりも何よりも雪乃が一番可愛いけどな」
「っ!」
頬を真っ赤にして、ほら、可愛い。
オマケに、パジャマ姿に涙目で可愛さ倍増中。
するりと頬を撫でて、軽いキス。
「景光…」
「降参する?」
「しないっ!」
おや、珍しい。
「どうしたい?」
怖くはない?
今は忘れているだけ?
顔の両側に手を付かれ上に跨られてしまったけど、視線が合うと、間もなく雪乃の動きが見事に停止した。
「ふっ」
思わず笑って、伸ばした指先で茶色の長い髪を撫でる。
慣れないことをするから。
「これ以上はムリです」
「どうして?」
困った顔でそのままパタンとオレの胸に倒れて来たから、抱き留める。
「朝から笑顔が眩し過ぎて、直視出来ません」
「くくくっ。お褒めいただき、有難う」
やっぱり予想の斜め上の返答があった。
「あ、そろそろ起きないと」
「雪乃」
「うん?」
静かに名前を呼ぶと、声音の変化で何か感じ取ったらしく、緊張で身構えた。
「昨夜連絡を入れて、仕事はしばらく休みをもらったよ」
「…そう。また、迷惑かけるね」
「午後は警視庁に出向くことになる」
「分かった」
「オレも一緒に行くよ」
「えっ?でも…」
「関係者だから、オレも」
「景光が責任感が強いのは知ってるけど、一人で何でも抱え込まないで。私達は二人で一つ、でしょう?」
「……そう、だな」
雪乃は雪乃なりに、覚悟を決めてくれたのだと。
これから起こりうるだろう、様々なことに対して。
アイツらが言う通り、オレなんかよりも雪乃の方がずっと強い。