第1章 *File.1*
「やっぱり」
まだ慣れない。
ある日突然、赤の他人の家で生活をすることに。
ましてやその家の主が、『名探偵コナン』の自分の一番の推しだなんて、絶対に有り得ないから!
神様、拷問過ぎやしませんか?
夢だと思ってたら、現実だし!
これが夢だったら、心置き無く純粋にこの生活を楽しめたのに!
だって、私は間違いなく死んだはずなのに、今はちゃんと心臓は動いてるし、足は地面についてるし、包丁でたまたま指切ったら血は出るし、暑いも寒いも感じるし!
景光の顔を見た瞬間、喜びよりも愕然としましたよ!お得意のポーカーフェイスで頑張ったけど、本当は発狂したかったわよ!でも残念ながら、素直に喜べるほど私は若くない。
目が覚めた直後から状況把握でいっぱいいっぱいで、過去にあんな短時間で、脳が活発化したことは一度もない。絶対に。
この歳で死んで、後悔も未練も数え切れないぐらいたくさんあったはずなのに、今では過去のことなんか考えてるヒマないし?
推しを目の前にして、惚れない女が何処にいるの?!
おまけにこの世界の景光は、想像してた以上にイイ男過ぎて!
今でも顔見る度に、声を聞く度に心臓バクバクするし、何の躊躇いも無しに触れてくれるから、キュン死しそうだし!彼が傍にいる間は、本当は心の中ではてんやわんや。
でも此処へ飛ばしてくれた神様?主?に一つだけお礼を言うなら、このピカピカキレイでスベスベなお肌と、スタイルバッチリで素敵なお胸を有難う!ちなみに顔と生まれつきの色素の薄い長い髪はそのままでした。ある意味、良かった。自分の顔まで変わってたら、もっとパニックってたから!
家の中のあちこちに盗聴器が仕掛けてあるから、独りでボヤくことが出来るのは、このお風呂と御手洗ぐらいで。
『オレがいない間はこれをつけることになった。自由な発言が出来るのは、オレが家にいる間だけになる。ごめん』
と、景光は申し訳なさそうに謝ってくれた。
何処まで優しい人なのかと、呆れ半分、尊敬半分。
きっと、彼を育ててくれた環境がとても良かったんだろうなと、勝手に解釈しておいた。
「いい香り」
市販のモノでも少し値が張るシャンプーとコンディショナーみたいで、好きな匂い。
髪質は彼と似ているのか、初めてドライヤーで乾かした時の髪の軽さに驚いた!
ボディソープも柑橘系で泡立ちが良くて、気持ちいいし。
