第10章 *File.10*(R18)
「で?」
「…何が?」
「昨日の彼は、誰?」
お弁当を食べ終わり、ペットボトルの紅茶の飲みながら一息。
「……」
そうだよね、そうなるよねー。
普通に考えて!
「彼氏?」
「…うん」
「入社当時から、いないって聞いてたけど?」
「んー、あの頃は逢えなかった、から」
「どうして?」
「彼の仕事の都合で」
「…ふーん」
清香はそう言って、ポンポンと私の髪を撫でた。
「清香?」
「だからいないフリまでして、ずっと我慢してたんだ?」
「…うん」
「誰にも相談出来ずに?」
「うん」
陣平と班長とは、こんな話しないし。
二人が気遣ってくれてるのが分かっていたからこそ、言えなかった。
「よく頑張った、ね」
「…うん」
「まだ時間はあるから」
「ご、めん」
昼休み。
社員用駐車場に停めてある清香の車の中で、私は一人きりの時に溜め込んだ色んな感情を堪え切れなくなって、泣いてしまった。
「おかえ、り…何があった?」
「ただいま。どうして?」
「目が腫れてる」
「何処かの誰かさんのせいで、寝不足だから」
「それは否定出来ないけど、誤魔化されないよ」
仕事が終わり、景光の車に乗り込むなりバレた。
自覚があることは、大変有難いことですが。
「昨日の彼女に、景光のこと聞かれて」
「ああ、あの子」
「…話してたら、色々思い出しちゃって」
「オレのせい、か」
ハンドルに凭れかかって、ため息を洩らす。
「景光のせいじゃない。私の弱さ、です」
「弱さ、なんて、簡単に言うな」
「大丈夫。この弱さも、何時かきっといい思い出になるから」
「全く、キミって人は…」
「ん?」
「何でもかんでもそうやって、自己完結するんだな。これからは我慢せずに、ちゃんとオレに伝えて」
「…分かった?」
「って、絶対分かってないだろう?」
呆れた顔で、深いため息を洩らされた。
「大丈夫!」
「うん、期待するのはやめておくよ」
「何故?」
「雪乃が雪乃だから」
「?」
「くっ、くくくっ」
「……」
今の笑うトコ?
何時見ても可愛い笑顔を見せながら一人納得した様子で、景光は車のエンジンをかけた。