第1章 *File.1*
「あのさ……」
「何ですか?」
「その敬語、いい加減止めないか?」
ついでにその無表情も、無理矢理感情を押し止めることも。
「どうしてですか?」
「オレは雪乃、本来のキミの姿がみたいんだ」
「……それは私に、今此処で裸になれと?」
「なっ!何でそう、なる……!」
思わず腰を浮かせたオレを見た直後、雪乃が俯いた。
その細い肩は震えている。
勿論、笑いを堪えて。
「謀ったな」
「だって……」
ストンと座り直して、視線を逸らした雪乃を軽くひと睨み。
「でもよかった。ちゃんと笑えてる」
「……心配してくれて、有難う」
「でも、まだ名前を呼んでくれない」
「えっ?」
「!」
ブスッと拗ねて見れば、笑いがピタリと止んだ後にあったのは、頬を薄らと赤く染めた雪乃。
思ってた以上に、めっちゃ可愛い!
「よ、呼べない」
「どうして?」
「その声で名前を呼ばれるのも、凄く恥ずかしいのに!」
「あー、なるほど」
二次元の人物であるオレ達がリアルにそこに居て、動いて喋ってる。
雪乃からしたら、そうなる、か。
「違和感はない?」
「ない。アニメ化されてるから」
あ、アニメ化?
ズバッとそう応えられると、オレもどう反応していいのか分からない、けど。
心底困った様子で、ソファに足を上げて抱えた膝に赤く染まる顔を埋めている。
もう、完全に別人。
何だか出逢ってからのこの三日間と言う長い時間を、凄く無駄にした気分になる。
「ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。でも、名前を呼んで欲しいのは、ホント」
ポンと柔らかな髪に触れれば、膝の上から潤んだ瞳がオレを見つめる。
「!」
ドクン!と、素直に反応した。
男としての、この心が。
もしかしたら、オレは……。
「……景光?」
「!!」
羞恥心を堪えた、上擦った小さな声で。
確かに名前を呼んでくれた。けど!
破壊力が半端ない!!
「?」
キョトンとした視線から逃れるように、顔を勢い良く背けて、口元を手で覆った。
ダメだ!
今、オレの顔はきっと赤い!
「……降参する」
「もう、名前を呼ばなくていい?」
「そうじゃなくて!雪乃、キミには負けたよ」
「……何が?」
「とにかく、名前はちゃんと呼んで」
「……努力、します」