第1章 優等生の皮を被った野獣
不良が多いこの学校に、二年になった今でもまだ少し慣れないでいる。
優しい人ももちろんたくさんいるし、こんな私にも分け隔てなく接してくれるから、助かる時もある。
困る事もあるけど、嫌な気はしない。
「場地さん、またそこ間違ってますよ」
「えっ!? 嘘っ!?」
七三に分けて、後ろで長く伸ばした髪を結って、漫画でしか見た事がないような眼鏡を掛けた人が、私の隣の席で後輩の男の子に間違いを指摘されている。
ノートに顔を近づけ、眉を寄せて唸る彼は、場地圭介。
私が密かに憧れる人。
不良なのに、何故こんな格好をしているのかは謎だけど、何だかんだ楽しそうにしている二人を見ていて、こちらも楽しいし、飽きない。
こんな事を思っているなんて、口が裂けても言えないけど。
文庫本を広げて読むけど、彼が隣になってからはあまり集中出来ずにいた。
「隣に頭いい人いんのに、教えてもらったらどうっスか?」
「あぁ? んなもん、迷惑かけんだろうがっ……。後、ビビらせても、悪いっつーか……」
私みたいなモブをも気に掛けてくれるのが、凄くいい人で。
「あー、確かに。俺等と住む世界違う感じっスもんね」
金髪の後輩君に言われ、少しだけ胸がチクリとした。
“住む世界が違う”。
言われたら、そうなのかもしれない。
「そーそー、まるで野獣に喰われる仔羊ちゃんて感じー?」
いつの間にか、人が増えている。
そして、何故か私の話題になっていて、現れた有名人“佐野万次郎”君が、私の机に両手を置いて横にしゃがんで、私をニコニコしながら見ている。
何だかいたたまれなくて、微妙な笑みを返すのが精一杯だ。
「マイキー、あんま迫ってやんな。ビビってんじゃねぇか」
後ろから佐野君の首根っこを掴んだのは、龍宮寺堅君。
場地君がよく絡む友達は、大体覚えた。
悪い人達じゃないから、別にビビるとかはないんだけど、私がいつもオドオドしてしまうから、そう見られているみたいだ。
だからと言って、それを堂々と否定出来る程、主張する勇気はない。
休み時間が終わり、体育の時間になった為、着替えてグラウンドに移動する。
外はまだまだ寒くて、少し大きいジャージに手を隠し、白い息を吐いた。
────ドンッ!