第1章 コルチカム
「あなたが夏目ね。さぁ名前を返しなさい。」
今日は運がなかったのだろう。昨晩も訪問してきた妖たちに名前を返し寝不足の中、友達にも心配され、やっとのことで学校が終わったのだ。静かに帰らせてほしいが、仕方がない。この妖も祖母に迷惑になったのだろう。
カバンから友人帳をとりだし最早慣れてきてもいる名を返す行為。
幸いだったが、友人たちと別れ人通りがなくなった際に声かけられたことだろう。
「ん?」
友人帳が反応しない。パラパラとめくられただけで該当する名前がないのだ。
「えっと、、、名前がないみたいだけど。」
「そんなことで騙されるわけないじゃない。ちゃんと探しなさいよ」
「しかし、名前がなければ返すことができない。すまないが、、、」
友人帳から目を上げてみると見覚えのある同じ制服を着た子だった。黒髪が腰まであり色白。白黒写真のような少女に見える。
「そう。」
眉を下げ悲しげに微笑む彼女は儚げだった。
「なぜ僕と同じ制服を着ているんだい。」
「なぜって同じクラスじゃない。」
「え。」
そう言われ思い返してみれば僕と正反対の席。廊下側に確かに彼女は座っていた。
「つまり君は人なのか。」
「そうよ。妖にみえる?」
首を傾げこちらをじっと見つめる目は深く黒色で底がないようにも見えた。
「なんで人である君が名前を返してほしいんだ?」