第1章 よいこにサンタは来るか
「そうだな、そのつもりだった
どうやって渡すかをずっと考えてたんだが、結局決まらなくてな
膝ついたりするのも考えたぞ」
「えっ!!
見たかった!!」
拗ねて出ていった昨日の私を恨む
と言うか普通にアクセサリーかと思っていたけれど、もしかしてこの指輪って……
「この指輪の意味って、エンゲージリングって事ですか?」
「エンゲー……ジ、リン…グ?」
月島さんはなんだそれは、と眉を潜めた
「婚約指輪ってことです!」
「婚約……?
指輪に何か違いがあるのか?」
「はあぁ!?
意味なくつけるのがファッションリング、付き合ってる二人がお揃いでつけるのがペアリング、プロポーズするときはエンゲージリング、結婚する二人がつけるのがマリッジリング」
「そんなに色々あるのか?」
「常識ですよ!」
「常識なのか…?」
月島さんは面倒くさそうな顔をした
乙女の常識ですよ
「え、もしかして左手の薬指に指輪をつけるのがどんな意味かも知らない…?」
たまたま買った指輪がたまたま左手薬指にぴったりだっただけ…?
サーッと興奮していた頭が冷めるのを感じる
そうだ、月島さんはこういう人だった
知らなくても不思議はない
「いや、それは違う
左手の薬指の意味くらいは解っている」
「えっ!」
すっかり熱が収まった頬に、赤みが再び差す
「じゃあ…」
「ちょっと待てゆめ、時間がヤバくないか?」
月島さんが言葉を遮ってスマホを確認する
そのまま画面を此方に向けてきた
画面の時計は、予定の出発時刻ギリギリになっていた
「え、ヤバい化粧水すらつけてない!」
話の続きは大変気になるがそれどころではない事に気付き、慌てて準備を再開する
着替えて化粧を省エネに済まし、朝御飯も食べずに鞄を持って玄関に向かう
パンプスに足を突っ込んでいると、月島さんが後ろから呼んだ
「ゆめ」
「何……」
振り返ると唇が合わさった
リップ音を立ててすぐに離れる
「昨日の食事、冷蔵庫に入っているから今晩温め直して食べよう
その時に話がある」
落ち着いた口調で話す彼は、真っ直ぐに私を見つめていた
サンタは24日から25日にかけては子供達にプレゼントを配らなければならない為、よいこの大人のところにはどうやら一日遅れでくるらしい