第1章 プロローグ
「まっ、ヴァルカナの言う通りなんじゃねえの?」
マイマイと熱帯夜の後ろの座席に座っていた帽子の社会人男性が言います。鳥安です。
「何も起こらないのが一番いいですけどね」
次に鳥安の隣の席に座っていた男子高生が言いました。スピードスターです。彼の声を聞くと、マイマイがかつて気に入っていた仲間のことを思い出したか、後ろの座席を振り返ります。
「ねえ颯人(はやと)」
『颯人』とは、スピードスターの本名です。
「あの、ここではスピードスターと呼んでくれませんか」
「ごめん、スピードスター、光宗は元気? 連絡って取れてる?」
「あいつなら、元気ですよ。今回は都合が悪くなって来られなくなったみたいで」
「そうなんだ」
「声が残念そうだぞ、声が」
マイマイをいじった鳥安でした。
「そうよ、そうですよ。残念ですよ」
開き直ったマイマイです。
「あの、運転手さん、道を間違ってませんか?」
一番前の座席に座っていた男子高生が言い、バスの中がざわざわし始めました。
「ほらな。やっぱり何か起こった…」
ヴァルカナがぽそっと口にします。
「まだそうと決まったわけじゃないでしょう。単純に道を間違っただけかもしれないし」
と、こはるんです。ヴァルカナは舌打ちしていました。