第4章 嫉妬と仇討ち
「どうした、入れ」
入り口で立つ私に信長様が声をかける。
「失礼します」
「貴様からここに来るなど珍しいが、如何した?」
私だってここに来たかったわけじゃないけど…けど良かった。今日は機嫌が良さそうだ。
「あの、信長様の羽織を仕立てる事になりましたので、お身体の寸法を測らせてもらいたくて…」
「貴様が俺の羽織を?」
「はい」
意外そうな顔をした後、信長様は黙り込んだ。
(当たり前だよね。私の仕立ての腕はまだまだなのに羽織なんて…、しかも朝廷から賜った大切な布なのに…)
「あの、これは大切な布だと聞いておりますので、もし私が作るのがお嫌でしたら他の針子に…」
「いや、貴様でいい」
「え、良いんですか?」
「ああ、仕上がりが楽しみだな」
「………っ」
(笑った?って言うか、本当に楽しみって思ってくれてるみたいな顔……?)
思いがけず無邪気な笑顔を見せられて、不本意にも頑張ろうと思ってしまった。
「じゃあ、測りますね。お立ち頂けますか?」
その場で立ち上がった信長様の体を尺で測っていく。
こんなにも信長様の体をしっかりと見るのは初めてだ。無駄なく引き締まっているのが着物越しでも分かって、抱かれている時の逞しい腕や胸の感触が嫌でも蘇ってしまう。
それに帰蝶よりも背が高いんだ…そんな事も知らなかった。
「あと、胸周りと胴回りを測りますね」
顔を合わせないように、背中から手を回して胴回りを測る。見た目はスッと細身に見えるのに、測ってみると厚い胸板でがっしりしている事が分かる。
本当に獣のような人だ。しかも飼い慣らされた獣ではなく、野に生息する野獣。
しなやかで無駄のない身体や周りを恐れ慄かせる素行の全てが野獣そのものだ…
「終わったか?」
「あ、はい」
「ならば次はオレの番だな」
信長様はそう言って振り返ると、私の帯に手を掛けた。
「……え、あの……」
シュルシュルと、明るい時間には不似合いな帯の解ける音…
シュルんと帯が抜き取られ、小袖も肩から下げられそのまま足元へと落ちた。
「…っ、信長様…」
襦袢の紐も解かれ袷が開かれる。