第13章 目覚めさせる方法
京から戻った俺は、真っ先に紗彩の眠る部屋へと向かった。
もしかしたらすでに目覚めて侍女の花と談笑している声が聞こえてくるのではないかと、部屋の襖の前に立ち耳を澄ました。
「………」
しんと静まり返った部屋からは何も聞こえては来ない。
「ふっ、そんな姿…起きていた時でも見たことはなかったな」
病に侵される前でも紗彩が声を上げて笑う所をあまり見たことがない事に気づき、渇いた笑いが漏れた。
静かに襖を開ければ、愛しい女はやはり横たわり眠っている。
「紗彩、今戻った」
近くへと行き、戻ったことを伝えて紗彩の顔を覗き込んだ。
あれからずっと眠り続けているとは思えぬ程に、眠る紗彩の姿はやつれることなく依然綺麗なままだ。
腰を下ろして奴の頬に触れれば、滑らかな肌から奴の温もりが指に伝わってくる。
「紗彩…起きよ」
声を掛け暫く見つめるが目は固く閉じられ微動だにしない。
「紗彩、貴様を苦しめる者はもういない。目覚めよ」
帰蝶と毛利は取り逃したが、二度と世を乱すような事はさせん。
「紗彩起きよ。そして笑え」
紗彩の頬を指で押して口角を上げるが、思い描く奴の笑顔とは程遠く、ため息が漏れた。
「……早く笑顔を見せよ」
俺は水菓子以外、どうすれば貴様が笑うのかを知らん。
決して短くはない時を共にして来たくせに、俺は紗彩が何を考え何を欲しているのかが分からん。
「紗彩、なぜ目を覚まさぬ」
(世を平らかにすれば貴様は目覚めるのではないのか?)
俺の問いに答える気配のない紗彩の頬から手を離して腕を組み、袂に手を入れた。
「…………!」
手に触れたのは、侍女の花から渡された紗彩の文……