第12章 愛しき者の正体
安土城の広間では、武将達が集められていた。
「何か分かった者はおるか?」
上座で脇息にもたれながら、信長は苛立ちを声に出す。
だが、この問いに答える者は誰もいない。
「三成、書物からは何も発見できんのか?」
痺れを切らした信長はまず三成に問いかける。
「はっ、城の書物全てに目を通しましたが、あの様に眠り続ける症状を記した書は見つかっておりません」
三成は苦しそうにそう伝える事しかできない。
「家康っ!貴様は何かないのかっ!」
ないと答えればたちまちに首が飛びそうな剣幕で問い掛けてくるが、
「……っ何もありません」
家康にはそう答えるしか出来ない。
「……一体、奴の身に何が起きてる」
信長は手に持つ鉄扇で畳をトントンと叩き独り言の様に言葉を吐く。
信長がこれ程に冷静を欠く姿をかつて人に見せたことがあっただろうか?
広間にいる者全てがその姿に内心驚いてはいるものの、その理由も分かるため、またこれといった解決策も思い浮かばないため項垂れる他なかった。
その理由とは、信長が本能寺より連れ帰り寵愛する娘、紗彩が目を覚まさなくなって今日で五日が経とうとしていたからだった。
「引き続き原因を探れ!」
「はっ!」
皆が頭を下げる中、信長は険しい面持ちで立ち上がり広間から出て行った。
信長の足は自然と愛しい女が眠る部屋へと向く。
(今日で五日、前回は五日目で目を覚ました。このまま部屋へ行けば紗彩は目を覚ましておるやもしれん)
淡い期待を胸に紗彩の眠る部屋の襖を開けるが、
「…………」
そこには布団に横たわったまま眠る紗彩の姿しかなく、期待はすぐさま砕け散った。