第9章 ぬくもり
「っ、はっ、……はぁ………」
「ふっ、唇同様に甘い顔だな。水菓子を食べたからか?」
「っ…………」
子どもみたいに笑う顔からは嬉しいと言う気持ちが伝わって来て、余計に心臓が跳ね上がった。
「耳まで真っ赤だな」
私の耳を指でなぞりながら信長様は再び私に顔を近づける。
また口づけられるのだと思い目を閉じた時、
「御館様ー、どちらにおいでですかー」
秀吉さんの、信長様を探す声が廊下から聞こえて来た。
「……ふっ、時間切れだな」
そう言って信長様は笑い、チュッと軽く私の唇にキスをして離れた。
「貴様はゆっくり食べてから行け。俺は先に行く」
信長様はそう言って立ち上がった。
「あ、私も一緒に出ます」
一人ここにいたら恥ずかしさで悶え死にしそうで、私も後に続こうと立ち上がった。
「信長様、待っ…………」
待ってもらおうと信長様の着物を掴もうとした時、目の前がぐにゃりと歪んだ。
「あ……」
目の前の景色がぐるぐると回り平衡感覚を失いかけた時、
「紗彩っ!」
信長様が私を抱き寄せた。
「如何したっ!」
「……え?」
ここで初めて、私は自分が目眩を起こして倒れかけたのだと気付いた。
「大丈夫か?」
信長様が心配そうに私を見つめる。
「……あ、口づけが長かったので息が上がってしまって……」
その時の私は本当にそう思った。
信長様の、情熱的で長すぎる口づけで酸欠を起こしかけ眩暈がしたのだと…
「っ阿呆、そんな愛らしい事を言うな。離れがたくなる」
「ご、ごめんなさい」
この時の私をとり囲む空気が甘すぎて幸せで、
歴史を変えてしまった代償が自分の体に起こり始めていたとは全く分かっていなかった。