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ゆりかごに甘噛み (R18)

第7章 ガラス玉にキスをするのは僕じゃなくても【赤葦京治】



 目を大きく見開いて、寧々さんがみるみる顔を赤くする。



「あ、赤葦にそんな冗談似合わないよ」

「俺だって冗談の一つくらい言いますよ」

「そんな無表情でしれっと言われてもわかんないから! シュールかっ」

「ナイス突っ込みです、センパイ」

「突っ込み役は赤葦の専売特許だよ?」

「いつからそんなもんに」

「光太郎とコンビ組んでから」

「木兎さんとお笑いコンビを組んだ記憶はありませんが」

「雰囲気出てるもん」

「おかしいな、あの人といる時は比較的真面目なつもりでいるのに」



 この場所でこうして寧々さんとふざけ合うのも、陽射しの熱を浴びながら飲み干すラムネも、今日で最後になるのだろう。

 ここへ来るたび大袈裟なくらいに喜ぶ姿も、堤防の上、定位置に腰かけた直後に両足を前に放り出す瞬間も。


 みんな、みんな最後だ。


 行ってくるねと言って駆け出す後ろ姿を、追いかけようとは思わない。



「赤葦、私やっぱり光太郎に告白するね」

「やっと決心がつきましたか」



 振り向いてわらった寧々さんの表情は清々しいものだった。高い位置で束ねてある髪の後れ毛がなびく。



「赤葦がいてくれて、よかったよ」



 翻る制服のスカート。背を向けた彼女が再び駆け出す。

 手違いで百万本のバラの花束が贈られてきてしまったような、今の俺には全くの不釣り合いであろう賛辞だ。それなのに、今までのどの時間よりも、最高に嬉しい瞬間だった。


 その、たった一言が。







「……大丈夫ですよ」








 寧々さんには打ち明けていない秘密を、本当は抱えている。














「木兎さんも寧々さんと同じ気持ちだから」
















 潮風が、まだほんの少しだけ目の奥に染みるけど───。



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