第7章 ガラス玉にキスをするのは僕じゃなくても【赤葦京治】
目を大きく見開いて、寧々さんがみるみる顔を赤くする。
「あ、赤葦にそんな冗談似合わないよ」
「俺だって冗談の一つくらい言いますよ」
「そんな無表情でしれっと言われてもわかんないから! シュールかっ」
「ナイス突っ込みです、センパイ」
「突っ込み役は赤葦の専売特許だよ?」
「いつからそんなもんに」
「光太郎とコンビ組んでから」
「木兎さんとお笑いコンビを組んだ記憶はありませんが」
「雰囲気出てるもん」
「おかしいな、あの人といる時は比較的真面目なつもりでいるのに」
この場所でこうして寧々さんとふざけ合うのも、陽射しの熱を浴びながら飲み干すラムネも、今日で最後になるのだろう。
ここへ来るたび大袈裟なくらいに喜ぶ姿も、堤防の上、定位置に腰かけた直後に両足を前に放り出す瞬間も。
みんな、みんな最後だ。
行ってくるねと言って駆け出す後ろ姿を、追いかけようとは思わない。
「赤葦、私やっぱり光太郎に告白するね」
「やっと決心がつきましたか」
振り向いてわらった寧々さんの表情は清々しいものだった。高い位置で束ねてある髪の後れ毛がなびく。
「赤葦がいてくれて、よかったよ」
翻る制服のスカート。背を向けた彼女が再び駆け出す。
手違いで百万本のバラの花束が贈られてきてしまったような、今の俺には全くの不釣り合いであろう賛辞だ。それなのに、今までのどの時間よりも、最高に嬉しい瞬間だった。
その、たった一言が。
「……大丈夫ですよ」
寧々さんには打ち明けていない秘密を、本当は抱えている。
「木兎さんも寧々さんと同じ気持ちだから」
潮風が、まだほんの少しだけ目の奥に染みるけど───。