第6章 *・゚・レインシューズはいらない*・゚*【岩泉一】
部屋を整え一息ついてスマホを覗くと、メッセージが届いていた。送り主はクラスメイトで、個人的なやり取りは一度もしたことがない男子からだった。
なんだろう?
首を傾げて、私は画面をタップした。
「──え?」
「どうした?」
振り向くと、黒いTシャツに青城バレー部のジャージを履いた一がタオルで髪を拭きながらやってきた。
部屋全体をキョロキョロと見渡して、変わってねぇなと呟く一に「あのね···っ」 勢いよく迫る。
「傘、見つかったのっ」
「まじか。どこで」
「クラスの子が間違って持って帰っちゃったんだって。今その子からメッセージがきて」
「へえ? いやけど間違えるか? 開けば一発じゃねぇか」
「彼女の傘にふたりで入って帰ってきたから、自分のは使わなかったんだって。さっき気づいて、私の傘だって知っててくれたみたい。ごめんって」
「あー、じゃああの残ってた黒い傘の」
「だと思う。明日持ってきてくれるみたい」
「よかったな」
「うん」
微笑(わら)い合い、瞳を綴じて、のんびりと長いキスをする。
またあの傘で一と一緒に歩ける日が来ると思うと次の雨も待ち遠しい。
そうして本物の青空が覗いたら、今年は海にも行きたいな。
堤防の上や砂浜を、裸足で思いきり駆け回りたい。
一とふたりで。
「ねえねえ、及川くんになんてアドバイスされたのかやっぱり気になるんだけど」
「聞くな」
「いいじゃん教えてよ。及川くんてモテるし恋愛経験豊富なイメージ」
「クソ川は所詮クソ川なんだよ」
「なんでも言い合えるのもお互いの信頼があるからだよね」
「あってたまるかそんなもの」
* F i n *