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ゆりかごに甘噛み (R18)

第1章 束ねて 【不死川実弥】





「不死川先生、そろそろお昼休みが終わりますよ」



 ソファで横になっている不死川実弥のそばに立ち、篠山寧々は柔らかな口調でそう呼び掛けた。

 見下ろした先の長い睫毛が微かに震える。けれど、実弥は一度の呼び掛けでは目を覚まさない。

 背中を丸め中腰になる。
 色素の薄い眉の辺りに指先を添え、沿うように、そっと撫でる。

 眠っているときの実弥の眉毛はほんの少し下がっていて、いつもとても優しい顔をしていること、この学園に通うほとんどの生徒たちは、きっと知らない。



「さーねーみーくん。早く起きて戻らないと、午後の授業に遅刻しちゃうよ」



 しゃがみ込んで耳打ちすると、実弥の口から「···ンン」という低い声が零れた。



「寧々······?」

「時間が─、ッ」



 後頭部に手が回り、少し強引に引き寄せられて、ほんの一秒、唇が重なる。
 ライトなキスが何度か繰り返されたあと、漂ったミントの香りが消えないうちに、実弥のまぶたがうっすらと開かれた。

 まだほのかに寝惚けたような眼差しと目が合う。

 唇から覗いた紅色の舌先が下唇にちろりと触れる。


 ──あ。


 これはいつもの。



 口開けろ、の実弥の合図だ。




「っ、だめ···っ」

「···あァ?」

「実弥くん寝惚けてる。ここは学校です」

「······あァ、そういやそうだったなァ」



 ようやく目が冴えたのか、実弥は大きな目をぱちぱちとまたたかせ、思い出したような顔で寧々を見た。

 ここは、キメツ学園高等部にある一室。

 カウンセリングルームである。



「よく眠れた?」

「あァ助かったぜぇ。近頃仮眠室行ってもなかなか寝つけねェからよォ」



 キメツ学園のカウンセリングルームは広い。

 ぬくもりのあるベージュを貴重とした内壁に、テーブルや本棚などのインテリアはウォールナット素材のもので揃えられていて、所々に観葉植物が並んでいる。



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