第2章 月島軍曹と刺青人皮
夜、寒い雨が降っていた
いつもの寝間着に一枚羽織る
雨を見ていたが、そろそろ寝ようかと灯りに手を伸ばした時だった
こんこん、と扉が鳴った
「!」
こんな時間に部屋を訪れる人間は、余程急な用件である筈だ
月島軍曹に何かあったのでは、と背筋が凍る
しかし予想とは裏腹に、扉を開けると彼が立っていた
「月島軍曹!」
「夜分遅くに申し訳ありません
部屋に灯りがついていたので…」
無事な姿にほっと肩を撫で下ろすが、今度は彼の全身煤けた姿が心配になる
「その格好は何が?
この雨なのに傘もささずに……
とりあえず中へ入って」
「いえ、一目ご挨拶に伺いたかっただけですので…
これで失礼いたします
夜分にすみませんでした」
「馬鹿
そんな格好だと風邪をひくから早く入って
上官命令!」
「…では、失礼します」
体が冷えないよう襦袢まで脱がせた
羽織を羽織らせ、ベッドに座らせてタオルで体を拭いてやる
月島軍曹はされるままで、顔には無表情ながらも陰りが見えた
「……………」
「……………」
無言の時が過ぎる
体が拭き終わったので隣に座るが、月島は項垂れるだけで動かない
「(話すきっかけが欲しいのか、言いたくないのかどっちなんだろう)」
相変わらず何も話さないので背中を擦ってみた
ぴくり、と背中が反応したが、されるままなのでゆっくりと擦り続ける
「あの……」
「ん?」
話す気になったかと思ったが、彼の口から出た言葉は意外なものだった
「夫婦の奴って、まだ有効ですか?」
「夫婦?」
「あの、夕張視察の…」
「あ、あーあれな!
有効だぞー、まだお前家に帰ってないだろ
家に帰るまでが夫婦だ!(?)」
自分でも何を言っているのか分からなかったが、とりあえず合わせようと思った
「夫婦だから無礼講だぞ!」
「…名前を」
「ん?」
「名前を呼んでください」
「ん、基」
「ゆめさん」
「なあに?基さん」
「ゆめさん……ゆめ」
何度かうわ言のように名前を呼ぶと、そのままベッドに倒れこんでしまった
「うわっ大丈夫か?」
「くー、くー」
「寝てる……」
余程つかれていたのだろう
泥のように寝てしまい、揺すっても起きなかった
かけ布団をかける
「おやすみ、基」